甲状腺疾患
甲状腺とは?

甲状腺は首の前下方にある、小さなハートのような形の甲状腺ホルモンを産生する内分泌腺です。
正常な甲状腺は小さくて柔らかいので、通常は触れません。腫大したり、硬く触れるときは、何らかの甲状腺疾患の存在が疑われます。甲状腺の上方には甲状軟骨(喉仏)、裏側には輪状軟骨、左右に筋肉があり、しばしばこれらを甲状腺と勘違いすることがあります。唾をのむと甲状腺は上下に動くので、見極めることが可能です。

甲状腺ホルモンの働き
甲状腺ホルモンには、主に3つの働きがあります。1つめは脳の発達・機能の維持で、主に胎児期から乳児期に重要です。2つめは成長促進作用で、胎児期から思春期まで常に重要です。3つめはエネルギー代謝亢進作用で、小児期以降も必要です。

甲状腺機能の異常
甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌されると(甲状腺機能亢進症)、代謝が高まり、発汗増加、手指の震え、頻脈、動悸、食欲亢進、体重減少などをきたします。小児に特徴的な症状として、落ち着きがなくなる、集中力が低下する、学力が低下する、イライラする、成長速度が大きくなる、夜尿などがあります。
甲状腺機能亢進症をきたす代表的な疾患として、バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などがあります。
甲状腺ホルモンの産生・分泌が低下すると(甲状腺機能低下症)、代謝が低下して、寒がり、皮膚の乾燥、易疲労性、むくみ、便秘、無気力、食欲低下、体重増加などをきたします。小児では成長速度が低下することがあります。
生まれつきの甲状腺機能低下症(先天性甲状腺機能低下症)以外の原因の大半は橋本病(慢性甲状腺炎)です。

バセドウ病

バセドウ病は、20代の女性に多い疾患ですが、幼児期から認められ、小児における甲状腺機能亢進症の大部分を占めます。小児期の男女比は1:3-5、成人は1:5-10です。
原因:自己免疫の異常により、甲状腺刺激ホルモン(TSH)と同じように甲状腺ホルモン産生を促すTSH受容体抗体(TRAb)という自己抗体が作られ、甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌されます。
症状:甲状腺がびまん性に腫大し、先に述べた甲状腺機能亢進症状や、眼症状(眼球突出、眼瞼の腫れ、物が二重に見える、等)がみられます。成人と比べて、小児で眼症状がみられることは多くありません。
診断は、血液検査で甲状腺ホルモン高値、TRAb陽性を確認すること、超音波検査、シンチグラムなどにより行います。
治療:薬物治療、アイソトープ治療(5歳以下は原則禁忌)、外科治療があります。
小児患者のほとんどが薬物治療を行いますが、アイソトープ治療、外科治療を行うことも可能です。抗甲状腺剤には頻度は多くはありませんが、重篤な副作用がありますので、少量から開始して、短い間隔で効果、副作用を確認しながら治療を進めます。成人に比べて難治性で、長期服薬例が多く、再発率が高い特徴があります。薬物治療が無効の時、重篤な副作用発生時には、アイソトープ治療、外科治療を行います。

橋本病(慢性甲状腺炎)

橋本病は中年以降に多い疾患ですが、小児の甲状腺腫および後天性甲状腺機能低下症の最も多い原因とされ、思春期以降に増加します。小児期の男女比は1:5、成人は1:10です。
原因:遺伝的素因を基盤として、ウイルス感染、ヨウ素過剰摂取などの環境因子が作用することにより自己免疫異常が生じて発症する自己免疫性慢性甲状腺炎です。家族内発症が30-40%にみられます。
症状:やや硬い、びまん性甲状腺腫大を認めます。小児では、血液検査で甲状腺機能が低下していても、自覚症状がない場合が多いです。
診断:血液検査での甲状腺自己抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体、抗サイログロブリン抗体)陽性、超音波検査などで行います。
甲状腺機能は低下から正常まで様々です。一過性に甲状腺機能亢進症を呈することもあります。
治療:甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモン剤を補充します。機能正常な場合、治療は不要です。

萎縮性甲状腺炎について

萎縮性甲状腺炎は、同じく自己免疫性慢性甲状腺炎である橋本病の異なる臨床型と考えられています。萎縮性甲状腺炎は稀な疾患ですが、診断が遅れると高度の低身長になりますので簡単に説明します。
症状としては急激かつ著明な成長率の低下が特徴的で、growth arrest(成長停止)と形容されることもあります。他に易疲労性、食欲低下、学業成績低下、便秘、肥満、粘液水腫などの様々な甲状腺機能低下症状を呈します。粘液水腫とは皮下にグリコサミノグリカンという多糖類が沈着し、圧痕を残さない浮腫を生じた病態です。このように様々な症状を呈するにも関わらず、甲状腺腫大を認めないため、早期に成長率低下に気づかれなければ診断が遅れることが少なくありません。
甲状腺刺激ホルモン著明高値、甲状腺ホルモン著明低値、甲状腺自己抗体陽性、超音波検査で甲状腺腫大を認めないことから診断されます。心嚢液貯留を伴う粘液水腫心を合併することもあります。
治療は橋本病と同様に甲状腺ホルモンの補充療法です。治療により顔の浮腫が消失すると、まるで別人のようになります。成長速度は急激に改善しますが、性成熟、骨年齢の進行が速まり、成人身長がかなり低くなる場合もあります。身長予後を改善するためには、成長率低下後できるだけ早期に治療を開始する必要があります。母子手帳、幼稚園、保育園、学校などの成長記録をもとに、日頃から成長曲線をつけておくことが大切です。